資産運用の基本を、長期データで考える
2026年9月、米国は約3年ぶりの利上げに踏み切りました。為替ヘッジの「コスト」を左右する日米の金利差は、いま大きく動いています。30年以上の為替の歴史と、海外の大手運用会社の研究をもとに、初心者でも迷わない選び方を解説します。
投資信託を探していると、同じ中身なのに名前だけが少し違うファンドが並んでいることがあります。たとえば「〇〇外国株式インデックス(為替ヘッジあり)」と「〇〇外国株式インデックス(為替ヘッジなし)」です。
どちらを選べばいいのか分からず、なんとなく片方を買ってしまった方も多いのではないでしょうか。実はこの選択、10年、20年という長い目で見ると、手元に残るお金が数十万円単位で変わることもある、とても大事な分かれ道です。
この記事では、むずかしい計算式はできるだけ使わずに、為替ヘッジの仕組み、いまの金利環境、そして長期データから見えてくる「選び方のコツ」を順番にお話しします。読み終わるころには、自分に合うファンドを自信を持って選べるようになっているはずです。
海外の株や債券に投資すると、値動きの原因が2つになります。1つ目は、株や債券そのものの値動きです。2つ目は、ドルやユーロと円の交換比率である為替の動きです。
たとえば、1ドル150円のときに100ドルの米国株を買ったとします。円にすると1万5000円です。1年後、株価は100ドルのまま変わらなくても、為替が1ドル120円の円高になっていたら、円で見た価値は1万2000円に減ってしまいます。反対に1ドル180円の円安なら1万8000円に増えます。
この為替による上下をできるだけ消す仕組みが為替ヘッジです。ヘッジとは英語で「生け垣」「防御」という意味で、円高になっても損をしにくくする代わりに、円安になっても得をしにくくなる「傘」のようなものだとイメージしてください。
為替ヘッジあり
為替の上下をほぼ消し、株や債券そのものの値動きだけに近づけます。値動きがおだやかになる一方、「ヘッジコスト」という費用がかかることがあります。
為替ヘッジなし
為替の動きをそのまま受けます。円安なら追い風、円高なら向かい風です。ヘッジコストはかかりません。
ここが一番大事なポイントです。ファンドが為替ヘッジをするときは、「数か月後にこのレートでドルを円に戻します」という約束(為替予約)を結び、期限が来るたびに更新していきます。この約束のレートには、2つの国の金利の差が反映されます。
運用会社の解説でも、ヘッジコストは理論上外貨の短期金利から円の短期金利を引いた値で表されると説明されています。つまり、米国の金利が日本より高いほど、ドルを円にヘッジするコストは高くなるということです。
ひとことメモ:ベーシスとは
実際のヘッジコストは、金利差に「ベーシス」と呼ばれる上乗せ分が加わることがあります。ベーシスとは、世界中でドルが足りなくなったときなどに発生する、ドルを借りるための追加料金のようなものです。大和アセットマネジメントのレポートでも、需給によってはこの上乗せが生じ、コストが金利差からずれると解説されています。
では、2026年9月時点の状況を見てみましょう。米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は、9月16日の会合で政策金利を0.25%引き上げ、3.75〜4.00%にしました。利上げは2023年7月以来、約3年ぶりです。
一方、日本銀行は6月の会合で政策金利を1.0%程度に引き上げています。9月17日から開かれている会合では、さらに追加の利上げがあるかどうかに市場の注目が集まっています。
単純に政策金利の差を計算すると、およそ2.75〜3.0%です。つまり、ドル建ての資産に為替ヘッジをかけると、毎年3%近いコストを払い続ける計算になります。これは、インデックスファンドの信託報酬(年0.1%前後)と比べると、30倍近い重さです。
注意したいのは、このコストが一定ではないことです。過去数年を振り返るだけでも、驚くほど上下しています。
| 時期 | ドル円のヘッジコストの目安(年率) | 背景 |
|---|---|---|
| 2021年 | 約0.1% | 日米ともに金利がほぼゼロ。ヘッジはほぼ無料でした |
| 2023年 | 約5.3% | 米国が急ピッチで利上げ。日本はマイナス金利のまま |
| 2026年4月 | 約3.8% | 日本の利上げが進むも、差はまだ大きい |
| 2026年9月(政策金利差からの試算) | 約3%前後 | 米国が再び利上げ。日銀の次の一手が焦点 |
出所:2021年〜2026年4月はWealth Atlasの解説記事より。2026年9月は筆者がFRB・日銀の政策金利から概算したもので、実際のコストはベーシスなどにより異なります。
2021年に「ヘッジありで安心」と思って買った人は、その後コストが50倍以上にふくらむとは想像していなかったはずです。ヘッジありファンドは、未来の金利差という「読めない費用」を抱える商品だと覚えておきましょう。
米国債のヘッジあり投資で起きたこと
第一生命経済研究所のレポートでは、ヘッジコストが米国10年債の利回りを上回った時期が2年近く続き、その間はヘッジ付きで米国債を持つと利息収入がコストに負けてしまったと指摘しています。「ヘッジあり=安全」とは限らない、分かりやすい実例です。
次に、為替そのものの長い歴史を見てみましょう。ドル円は、この30年あまりで信じられないほど大きく動いてきました。
| 時期 | ドル円のおおよその水準 | できごと |
|---|---|---|
| 1995年春 | 80円割れ | 当時としては歴史的な円高 |
| 1998年夏 | 140円台後半 | わずか3年ほどで大幅な円安に |
| 2011年秋 | 75円台 | 東日本大震災後、戦後最高値の円高 |
| 2024年夏 | 161円台 | 約37年ぶりの円安水準 |
| 2026年夏 | 一時160円台 | 米国の利上げ観測で再び円安方向に |
75円から160円へ。同じ1ドルの価値が、円で見ると2倍以上も変わったわけです。そして大事なのは、円高と円安が一方向に進み続けたのではなく、何度も「行って戻る」をくり返してきたという点です。
世界最大級の運用会社である米バンガード社は、長年この問題を研究してきました。同社は、長期で資産を増やしたい投資家に対して、世界の株式はヘッジなし、世界の債券はヘッジありで持つことをすすめています。
理由はシンプルです。株式はもともと値動きが大きいため、為替の上下が加わっても全体への影響は相対的に小さくなります。さらに、ヘッジは短期の値動きをおさえるためのもので、長く続けるとコストが積み重なりリターンを削ると説明しています。
一方で債券は、本来は値動きが小さい「守りの資産」です。ヘッジをしないと、為替の影響で値動きが株と同じくらいまで大きくなり、守りの役割を果たせなくなってしまうと指摘されています。
また、オーストラリアなどでバンガード社の考え方を紹介した記事では、どちらか迷う人向けに「半分だけヘッジする」という、後悔の少ない折衷案も紹介されています。
日本の投資家ならではの注意点
海外の研究は主に米国や欧州の投資家の目線です。円には、世界の株が大きく下がる場面で買われやすい「有事の円買い」というクセがあります。そのため日本の投資家がヘッジなしで外国株を持つと、株安と円高が同時に来る「ダブルパンチ」を受けやすい点は知っておきましょう。長期では値動きをならせても、短期の下落は大きく見えやすいのです。
ここからは、イメージをつかむためのシミュレーションです。100万円を外国株式のファンドに10年間投資し、株そのものは毎年6%ずつ成長すると仮定します。ヘッジコストは現在の水準に近い年3%が10年続くとします。
| 10年後の為替 | ヘッジなし | ヘッジあり | 有利だったのは |
|---|---|---|---|
| 変わらず | 約179万円 | 約134万円 | ヘッジなし |
| 20%の円安 | 約215万円 | 約134万円 | ヘッジなし |
| 20%の円高 | 約143万円 | 約134万円 | ヘッジなし |
| 30%の円高 | 約125万円 | 約134万円 | ヘッジあり |
筆者による単純化した試算です。信託報酬や税金、ヘッジコストの変動、ヘッジの誤差は考えていません。将来の成果を約束するものではありません。
この表から分かるのは、ヘッジコストが年3%もかかる環境では、10年で30%近い大きな円高が来ないかぎり、ヘッジありが逆転しにくいということです。年3%のコストは、10年重なると元の資産の成長をおよそ4分の1も削ってしまうからです。
1ドル160円前後という水準は、過去の歴史から見るとたしかに円安の側にあります。ですから、大きな円高が絶対に来ないとは言えません。けれども、その「もしも」のために毎年3%を払い続けるのが割に合うかどうかは、冷静に考えたいところです。
一方、債券では事情がちがいます。2026年春の試算では、米国10年債の利回りが4%台前半、ヘッジコストが約3.8%で、ヘッジ後に手元に残る利回りは日本の10年国債(約1.5%)を下回る計算になっていました。
つまり、いまヘッジあり外国債券を選ぶなら「利息で稼ぐ」というより「値動きの小さい守りの資産を、国を分けて持つ」という目的になります。利回り目当てなら、ヘッジあり外国債券より国内債券や個人向け国債のほうが素直な選択になる場面もある、ということです。
ここまでの内容をもとに、選び方を整理します。次のうち、自分に当てはまるものをチェックしてみてください。
ヘッジなしが向いている人
- 10年以上使う予定のないお金で、外国株式に積み立てている
- 途中で円高になって値下がりしても、あわてて売らずに続けられる
- 円だけで資産を持つことに不安があり、円安への備えもしたい
ヘッジありを検討してよい人
- 外国債券を「守りの資産」として持ち、値動きをおだやかにしたい
- 数年以内に使う予定のお金で、為替で目減りするのを避けたい
- すでにヘッジなしの外国資産を十分持っていて、為替の偏りを少し減らしたい
-
1
持っているファンドの名前を確認する。「為替ヘッジあり」「ヘッジなし」は、ファンド名や目論見書(ファンドの説明書)に必ず書かれています。まずは自分がどちらを持っているかを知りましょう。
-
2
資産ごとに役割を決める。株式は「増やす役」なのでヘッジなしを基本に、債券は「守る役」なのでヘッジありも候補に、と役割で分けると迷いが減ります。
-
3
年に1回、金利差をチェックする。ヘッジコストは日米の金利差で変わります。運用会社が公開している月次レポートなどで、ヘッジコストの水準をときどき確認する習慣をつけましょう。
やってはいけないこと
「円高になりそうだからヘッジありに乗り換え、円安になりそうだからヘッジなしに戻す」という売り買いは、おすすめできません。為替の先読みはプロでもむずかしく、バンガード社も為替ヘッジはリターンを上乗せする道具ではなく、リスクを管理する道具として使うべきだとしています。乗り換えのたびに税金がかかる場合もあります。
- 為替ヘッジは、円高の損を減らす代わりに円安の得も手放す「傘」です。
- 傘の値段であるヘッジコストは日米の金利差で決まり、2026年9月時点では年3%前後と重い水準です。
- 長期の外国株式はヘッジなしが基本。海外の大手運用会社の研究も同じ方向を示しています。
- 外国債券は値動きをおさえる目的ならヘッジありが候補。ただし利回りはコストで大きく削られます。
- 為替を予想して乗り換えるより、資産ごとの役割を決めて淡々と続けるほうが、長い目で見て報われやすいです。
為替ヘッジの「あり」「なし」は、どちらが正解というより、自分のお金の使い道と、いまのコストを知ったうえで選ぶことが大切です。日米の金融政策はこれからも動きます。ヘッジコストという「傘の値段」の変化に目を配りながら、あなたに合った資産づくりを楽しんでください。
本記事は情報提供を目的としたもので、特定の商品の購入をすすめるものではありません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。記載の数値は2026年9月17日時点で確認できた情報と筆者の試算にもとづきます。
【免責事項】
記事内のデータ・数値は2026年9月時点の情報をもとにしています。
投資に関するご注意事項 本記事に掲載している情報は、資産運用に関する一般的な情報の提供および筆者個人の見解の記録を目的としたものであり、特定の金融商品の売買、特定の投資手法、または投資成果を保証・勧誘するものではありません。
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投資には価格変動リスク、信用リスクなど様々なリスクがあり、元本を割り込む可能性があります。実際の投資判断にあたっては、必ずご自身の責任と判断において行っていただきますようお願いいたします。本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、筆者は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。



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