サマリー
8月18日の米国債券市場では、償還までの期間が最も長い30年物国債の利回りが5.33%まで上昇し、2007年以来約19年ぶりの高水準を更新した。前日17日から2営業日連続での高値更新となる。財政赤字の拡大やAI関連企業による社債発行ラッシュを背景とした需給悪化懸念に加え、中東情勢の緊迫化に伴う原油高がインフレ再燃懸念を強めており、長期債を中心に売り圧力(利回り上昇・価格下落)が続いている。
主要年限の利回り(8月18日)
- 30年債利回り:5.323%(前日比+1bp超)、2007年以来・約19年ぶりの高水準。2002年以来の高水準に接近
- 10年債利回り:4.732%(前日比+1bp未満)、住宅ローン・自動車ローン・クレジットカード金利の主要な指標
- 2年債利回り:4.186%(前日比+1bp未満)、FRBの短期金利政策を反映しやすい年限
なお前日17日には、30年債が前週終値比+5bpの5.31%、20年債も5.3%台まで上昇し、いずれも2007年6月・2023年10月以来の水準となっていた。
上昇の背景①:財政赤字の急拡大
米財務省が公表したところによると、7月の連邦政府財政赤字は4,320億ドルと5年超ぶりの月次最大を記録した。米議会予算局(CBO)が公表した2026会計年度の累計財政赤字は既に1兆8,000億ドルに達しており、通年では2兆ドル近くに達する可能性がある(2025年度の1兆7,800億ドルを上回る見通し)。米国の政府債務残高は今後数年でGDP比120%を超える見通しとされ、国債の大量発行が続くなかで、長期債投資家がより高いプレミアム(上乗せ金利)を求める展開となっている。
上昇の背景②:AI関連企業の社債発行ラッシュ
ハイパースケーラー(大手クラウド事業者)を中心としたAIインフラ投資向けの巨額な社債発行が、債券市場全体の需給悪化懸念につながっているとの指摘が出ている。バークレイズ銀行は、今回の長期債利回り上昇の主因はインフレそのものよりも、米財政赤字の悪化・AIテック企業の起債急増・年限プレミアムの上昇にあるとの見方を示している。
上昇の背景③:インフレ高止まりと原油高
過去5年間にわたりFRBの目標を上回り続けているインフレへの懸念に加え、中東情勢の緊迫化を受けた原油価格の上昇がインフレ再燃リスクとして意識されている。もっとも直近の経済指標(7月のCPI・PPI)は2カ月連続で伸びが鈍化しており、短期金利市場ではFRBが9月のFOMCで金利を据え置く確率を68%程度織り込んでいる。インフレ指標そのものは落ち着きを見せる一方で、財政・需給要因が長期金利を押し上げるという、やや異例の組み合わせとなっている点が特徴だ。
世界的な金利上昇の連鎖
長期金利の上昇は米国に限らず世界的な現象となっている。カナダの30年国債利回りは2010年以来、ドイツの金利は2011年以来の高水準をそれぞれ記録。日本でも新発10年物国債利回りが1996年以来約30年ぶりの高水準(一時2.945%)をつけており、日米欧で長期金利の上昇が同時進行する展開となっている。
株式市場への波及
長期金利の急上昇を受け、同日の米国株式市場ではバリュエーションの高い半導体・AI関連の成長株を中心に売りが強まり、ナスダック総合が1.33%安と主要3指数の中で最大の下落率となった。「金利のある世界」への移行が意識されるなか、株式市場のバリュエーション(投資尺度)に対する市場の視線はより厳しさを増しつつある。
市場参加者の見方
シタデル・セキュリティーズの欧州・中東・アフリカ債券営業責任者は、FRBの政策金利がピークから175bp引き下げられているにもかかわらず、超長期金利が約20年ぶりの高水準にあることについて、FRBと財政当局が難しい選択を迫られた際に「より楽な道」を選びがちだと市場が織り込んでいる表れだと指摘している。市場では30年債利回りが6%台に達するとの見方をする投資家も出ており、「当面米国債は買えない」との声も聞かれる。
今後の注目点
- 9月17日のFOMC:会合議事要旨(水曜日公表予定)と金利据え置きの確度
- 今後の国債入札状況:特に30年債など超長期ゾーンでの需要動向
- AI関連企業の起債動向:社債発行のペースと市場消化力
- 中東情勢と原油価格:インフレ期待への波及度合い
- 政府の財政運営:追加の歳出策や補正措置の有無
財政赤字の構造的な拡大とAI投資ブームに伴う起債増加という、景気循環とは異なる需給要因が長期金利を押し上げている点が今回の局面の特徴であり、インフレ指標が落ち着いても金利高止まりが続く可能性がある点には注意が必要だ。
本レポートは2026年8月18日(現地時間)の取引終了時点の報道・市場データに基づいて作成しています。投資判断は自己責任で行い、必要に応じて金融専門家にご相談ください。




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記事内のデータ・数値は2026年8月時点の情報をもとにしています。
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