「物価が上がる時代は、現金より株を持つべき」とよく聞きます。でも、それは本当でしょうか。2026年9月に発表された最新のアメリカの物価データと、100年近い歴史のデータを使って、初心者の方にもわかるように答えを探していきます。
スーパーの値段、ガソリン代、電気代。ここ数年、「なんだか全部高くなったな」と感じている方は多いはずです。こうした物価がどんどん上がっていく状態を「インフレ」と呼びます。
インフレのこわいところは、銀行に預けたままのお金の「買える力」が、知らないうちに減っていくことです。100万円は100万円のままでも、物価が3%上がれば、1年後には実質97万円分くらいのモノしか買えなくなります。
そこで注目されるのが米国株です。「米国株はインフレに強い」という話は本当なのか。結論を先に少しだけお伝えすると、答えは「長い目で見ればイエス。ただし短い期間では、むしろ苦手な場面もある」です。この「ただし」の部分を知っておくと、相場が荒れたときにも落ち着いて行動できるようになります。
まずは足元の状況です。2026年8月のアメリカの消費者物価指数(CPI)は、1年前と比べて3.4%の上昇で、7月と同じ伸びでした。CPIとは、「ふだんの暮らしで買うモノやサービスの値段が、どれくらい変わったか」をまとめた物差しのことです。
中身を見ると、上昇の大きな原因はガソリンです。ガソリン価格は1年前より27.4%も高くなり、8月の月間の上昇分の3分の1以上をガソリンが占めました。一方で、住まいに関する費用や食品の値上がりは少し落ち着いてきています。
ここで大事なのが「コアCPI」です。これは、値動きが激しい食品とエネルギーを除いた物価の物差しで、物価の「基本的な流れ」を見るのに使われます。コアCPIは前年比2.4%で、2021年3月以来の低い水準まで下がりました。つまり今のアメリカは、「全体の物価はエネルギーで押し上げられているけれど、根っこの部分は落ち着きつつある」という、ちょっと複雑な状態なのです。
| 項目(2026年8月) | 前年比 | ひとことメモ |
|---|---|---|
| CPI(全体) | 3.4% | 7月と同じ伸び |
| コアCPI | 2.4% | 2021年3月以来の低さ |
| ガソリン | 27.4% | 物価を押し上げる主役 |
| 住まいの費用 | 3.0% | 3.2%から少し鈍化 |
| 食品 | 2.7% | 3.0%から少し鈍化 |
出典:米労働統計局(BLS)発表をもとにしたCNBC、Trading Economics、TD Economicsなどの報道を筆者が整理
株式市場にとって気になるのは、アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)の動きです。FRBは物価を落ち着かせるために、政策金利(世の中の金利の基準になる金利)を上げ下げします。報道によると、CPIの発表前から、市場は約70%の確率で0.25%の利上げを見込んでいました。パウエル氏の後を継いだウォーシュ議長は、物価を目標の2%に戻す姿勢を強く示しています。一方で、コアCPIの落ち着きを理由に「急ぐ必要はない」と見る専門家もおり、見方は分かれています。
ここからが本題です。まずは、長い歴史のデータを見てみましょう。
世界的な運用会社であるディメンショナル社の分析では、1926年までさかのぼると、米国株(S&P500)の物価上昇分を差し引いた年率リターンは約7.0%でした。S&P500とは、アメリカを代表する約500社の株価をまとめた指数のことです。
この「物価上昇分を差し引いたリターン」を実質リターンと呼びます。たとえば株で10%増えても、物価が3%上がっていれば、本当に豊かになった分はおよそ7%です。この実質リターンで年7%ということは、物価の上昇に負けず、買える力そのものを毎年しっかり増やしてきたということになります。
ほかのデータでも同じ傾向が見られます。2026年8月末時点のデータでは、過去50年の配当込み年率リターンは約11.9%、物価調整後でも約8.0%と計算されています。また、1928年以降の平均的な物価上昇率はおよそ3%で、実質リターンは名目リターン(見た目のリターン)より約3%低くなる、という整理もあります。
理由はシンプルです。株を持つということは、会社の持ち主の一部になるということ。そして会社は、材料費や人件費が上がれば、商品の値段も上げることができます。
- 物価が上がると、会社の売上の「金額」も一緒に増えやすい
- 強いブランドを持つ会社は、値上げしてもお客さんが離れにくい(これを「価格決定力」といいます)
- 工場や土地など「モノ」の資産は、物価と一緒に価値が上がりやすい
一方、現金や、利息が固定された預金は、物価が上がってもその分だけ増えてくれるわけではありません。ここに、「現金は物価に負けやすく、株は物価についていきやすい」という根本的な違いがあるのです。
ここで「じゃあ物価が上がりそうなら、株を買えば安心だ」と思った方は、少し待ってください。歴史をくわしく見ると、物価が急に大きく上がる局面では、株価はむしろ下がりやすいことがわかります。
記憶に新しいのが2022年です。この年、アメリカの物価上昇率は一時9%を超え、約40年ぶりの高さになりました。FRBは物価を抑えるために、急ピッチで金利を引き上げます。その結果、2022年のS&P500は約19.4%の下落となりました。過去10年で見ても、飛び抜けて大きなマイナスの年です。
もっと厳しかったのが1970年代です。石油危機などで物価が長いあいだ高い状態が続き、株価は見た目には上がっても、物価を差し引くとほとんど増えない時期が続きました。過去50年の名目リターンと実質リターンの差が大きいのは、1970年代から1980年代初めの高いインフレの影響が大きいと指摘されています。
理由1つ目:金利が上がる
金利が上がると、安全な預金や債券でもそこそこ稼げるようになり、株の人気が下がります。
理由2つ目:コストが急増
値上げが追いつく前に、材料費や人件費が増え、会社のもうけが一時的に減ります。
理由3つ目:将来の価値が目減り
特に「将来大きく稼ぐ」と期待される成長株は、金利上昇で今の価値が低く見積もられがちです。
つまり、株がインフレに強いのは「時間をかけて値上げが追いつくから」であって、物価が急に上がった瞬間から強いわけではないのです。このタイムラグを知っているかどうかで、下落局面での行動が大きく変わります。
同じ米国株でも、インフレへの強さは会社によって大きく違います。インフレのときに比較的がんばりやすいのは、次のようなタイプです。
| タイプ | インフレへの強さ | 理由 |
|---|---|---|
| エネルギー関連 | 強い傾向 | 原油やガソリンの値上がりが、そのまま売上増につながりやすい |
| 連続増配株 | 強い傾向 | 配当を増やし続ける体力があり、値上げできるブランドを持つ会社が多い |
| 生活必需品 | 比較的安定 | 食品や日用品は、値上げしても買われ続けやすい |
| 高成長のハイテク株 | 短期は弱い傾向 | 金利上昇の影響を受けやすく、株価が大きくゆれやすい |
特に注目したいのが連続増配株です。これは、何十年も続けて配当(会社がもうけの一部を株主に配るお金)を増やしてきた会社のこと。アメリカには、25年以上連続で増配している「配当貴族」と呼ばれる企業群があります。
フィデリティの分析によると、1930年以降、配当は株式市場全体のリターンの約4割を占めてきました。また同社の担当者は、インフレが長引く環境では、配当を速いペースで増やす企業が市場平均を上回ってきたと述べています。実際、1989年4月から1991年5月のインフレ期には、エクソンモービルやコカ・コーラなどの増配企業が、S&P500の2倍以上のリターンを出したとされています。
そして2022年もエネルギー株は大きく上昇し、指数全体が大きく下げるなかで存在感を示しました。「インフレのときは、どんな株を持っているかで結果がまったく変わる」というのが、歴史からわかる大切なポイントです。
初心者の方へのひとこと
「エネルギー株だけ買おう」と一つに絞るのはおすすめしません。物価が落ち着けば、今度は逆に弱くなることもあるからです。まずはS&P500などの指数に幅広く投資し、そのうえで少しだけ特徴のある株を加えるくらいの考え方が、長続きしやすい方法です。
ここまでの内容をふまえて、今日からできる具体的な行動をまとめます。
-
1
長く持つ前提で始める。歴史上、S&P500を20年間持ち続けて、配当込みでマイナスになった期間はないとされています。短期の上げ下げより、時間を味方につけることが一番の武器です。
-
2
毎月コツコツ積み立てる。決まった金額を毎月買い続けると、株価が下がったときには多く、上がったときには少なく買えます。2022年のような下落も「安く買えるチャンス」に変わります。
-
3
現金も少し手元に残す。急なインフレで株が下がったとき、生活費まで投資に回していると、売りたくないタイミングで売ることになりかねません。生活費の数か月分は現金で確保しておきましょう。
なお、日本から米国株に投資する場合は、円とドルの為替レートの動きも結果に影響します。また、本記事は特定の銘柄の売買をすすめるものではありません。投資の判断はご自身の状況に合わせて行ってください。
- 2026年8月のアメリカの物価は前年比3.4%。ガソリン高が押し上げる一方、コアCPIは2.4%まで落ち着いています。
- 1926年以降、米国株は物価を差し引いても年率約7%のリターンをあげてきました。
- ただし2022年や1970年代のように、急なインフレと利上げの局面では株価は下がりやすくなります。
- エネルギー株や連続増配株など、インフレに比較的強いタイプの株もあります。
- 長期・積み立て・分散の3つを守れば、インフレは「こわいもの」から「資産を育てる追い風」に変えていけます。
物価が上がる時代は、何もしないことが一番のリスクになるかもしれません。でも、歴史を知っていれば、下落にあわてることもありません。今日の小さな一歩が、10年後、20年後の大きな安心につながります。ぜひ、あなたのペースで米国株との付き合い方を考えてみてください。
参考:CNBC(2026年9月11日)、US Inflation Calculator、Trading Economics、TD Economics、Dimensional Fund Advisors、Trade That Swing、SoFi、Journey Advisory Group、Benzinga(フィデリティのコメント引用)
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