バフェットの後継者が「何十年も持つ」と明言|三菱商事(8058)はいま買っていい株なのか

日本株

「何十年も持ち続ける」ウォーレン・バフェット氏の後継者が、日本の商社にラブコールを送りました

世界最大級の投資会社バークシャー・ハザウェイの新しいトップ、グレッグ・アベルCEOが2026年9月、東京から日本の総合商社への強い投資意欲を語りました。名指しされた5社の筆頭が、三菱商事(証券コード8058)です。この記事では、ニュースの中身と三菱商事の実力を、投資を始めたばかりの方にもわかるように一つずつ分解していきます。

株式投資をしていると、ときどき「相場の空気が一日で変わる」瞬間に出会います。2026年9月3日の東京市場が、まさにそれでした。

前日にアメリカの経済専門メディアCNBCが配信した、あるインタビューがきっかけです。話し手は、バークシャー・ハザウェイのグレッグ・アベルCEO。あのウォーレン・バフェット氏から2026年1月に経営のバトンを受け取った人物です。彼はこう語りました。日本の5大商社の株式は「何十年も保有するつもりだ」と。

この一言で、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅の株価がそろって動きました。三菱商事は前日比239円高の5,099円をつける場面もあり、東証株価指数(TOPIX)の中でも目立つ上昇銘柄となりました。

では、この話はどこまで「本物」なのでしょうか。そして私たち個人投資家は、このニュースをどう受け止めればよいのでしょうか。順番に見ていきます。

ポイント1 アベルCEOは、実際に何を語ったのか

報道をまとめると、今回のメッセージは大きく3つに分かれます。ニュースの見出しだけでは伝わりにくい部分なので、丁寧に整理します。

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    「何十年も保有する」という長期宣言

    アベルCEOは、5社の株式について長期投資であり、何十年も持ち続けるつもりだと明言しました。さらに、各社の実力ベースの利益は今後も伸びていくとの見方を示し、増配(配当を増やすこと)や自社株買いの継続にも期待していると語っています。

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    「まだ買い増す可能性がある」という追加宣言

    日本経済新聞やNikkei Asiaのインタビューでは、5社への出資比率をさらに引き上げることを検討していると述べています。加えて、商社と組んで世界各地で共同投資やM&A(企業の買収・合併)を進めたいという意欲も示しました。単なる株主ではなく、事業のパートナーになろうとしている、という点が今回の新しさです。

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    「日本の金利上昇は今のところ問題ない」という見解

    直近、日本の10年国債の利回りが約30年ぶりの高水準となる3%台に乗せ、市場では警戒感が広がっていました。しかしアベルCEOは、5社のいずれもそれを根本的な課題としては挙げなかったと説明しています。世界的に見れば、同じ時期のアメリカの10年国債利回りは4.8%台であり、日本の水準はまだ相対的に低いという整理です。

「10%の壁」を越えた、という地味だけれど重要な話

今回のインタビューには、初心者の方が見落としがちな重要な情報が含まれています。それが出資比率10%という上限の話です。

バークシャーが5大商社に投資を始めたのは2019年ごろ。2020年8月に各社5%超の保有が判明し、市場を驚かせました。当時バフェット氏は「保有比率は最大でも9.9%まで」と各社に約束していました。会社にとって、外部の株主が10%を超えることは経営への影響力が一段強まることを意味するため、この約束は一種の安心材料でした。

ところが投資開始から6年ほど経った段階で、5社それぞれから10%超の保有について了解を得たとアベルCEOは説明しています。実際、2026年4月末時点で三菱商事への保有比率は11%台に達し、住友商事や丸紅でも10%を超えました。今では5社すべてで10%超の株主です。

ここがポイント:「約束を緩めてもらってまで買い増した」という事実は、口先だけの応援ではなく、実際にお金を投じているという何よりの証拠です。株式投資では、発言よりも行動を見るほうが確かです。

なぜバークシャーは日本の商社に、これほど強気でいられるのか

その答えの一つが、あまり語られない「お金の借り方」にあります。バークシャーは日本で円建ての社債を継続的に発行しています。2026年4月には約2,720億円を調達し、円建て負債の残高は1.5兆円を超えました。平均の調達コストは年1.2%程度かそれ以下とされています。

一方、商社株から受け取る配当の利回りはそれを上回ります。つまり、安い金利で円を借りて、それより利回りの高い日本株を持つという構図です。差額がそのまま収益になります。しかも借金も資産も円建てなので、為替が動いても損得が打ち消し合い、為替リスクを自然に抑えられます。

2026年3月には東京海上ホールディングスへ2.49%出資し、世界のM&Aで協業する方針も打ち出しました。商社株の買い増しは、この日本戦略全体の一部と見るのが自然です。

ポイント2 三菱商事とは、そもそもどんな会社なのか

ここで主役の三菱商事を見ていきましょう。名前は誰もが知っていても、何で稼いでいる会社かと聞かれると答えにくい。それが商社という業態です。

三菱商事は1918年に設立され、東証プライム市場に上場する日本最大級の総合商社です。総合商社をひとことで言えば、世界中のモノとお金を動かし、有望な事業には自ら出資して株主になる会社です。かつては商品を右から左へ流す仲介役でしたが、今は投資会社としての性格が強くなっています。

事業の柱は幅広く、天然ガスや液化天然ガス(LNG。天然ガスをマイナス162度まで冷やして液体にし、船で運べるようにしたもの)、銅などの金属資源、機械、化学品、食品、電力、都市開発まで及びます。身近なところでは、コンビニのローソンや食品卸の三菱食品もグループの一員です。

業績は「底を打って、V字回復を狙う」局面

2026年3月期は、純利益が前の期より15.8%減って8,005億円でした。数字だけ見ると3期連続の減益です。ただし中身を分解すると印象が変わります。減益の主因は、前の期に計上したローソンの再評価益やオーストラリア原料炭事業の売却益といった一時的な利益がなくなった反動でした。稼ぐ力そのものが落ちたわけではありません。

そして会社は2027年3月期に、純利益1兆1,000億円(前期比37.4%増)という強気の計画を掲げました。実現すれば4期ぶりの増益で、過去最高だった2023年3月期の1兆1,806億円に迫る水準です。カナダのLNG事業の本格稼働、約1兆2,000億円を投じる米国の天然ガス開発会社エーソンの買収、三菱食品の完全子会社化などが利益を押し上げる計画です。

2026年8月3日に発表された第1四半期(4月から6月)は、収益が前年同期比22.8%増の5兆1,810億円、純利益が47.0%増の2,985億円と好調な滑り出しでした。通期予想は据え置かれています。

項目 2026年3月期(実績) 2027年3月期(会社計画)
収益(売上高にあたる) 18兆9,160億円 非開示
純利益 8,005億円(15.8%減) 1兆1,000億円(37.4%増)
1株当たり利益 210.92円 300.42円
年間配当 110円 125円(15円の増配)
ROE(自己資本利益率) 8.5% 計画値は非開示

出典:三菱商事の決算短信および各種報道。ROEは親会社所有者帰属持分当期利益率。

株主への還元は、配当より自社株買いが主役

三菱商事の株主還元には、2つの特徴があります。

  • ◆ 1つ目は累進配当です。「累進配当」とは、原則として配当を減らさず、維持するか増やしていくという方針のことです。三菱商事は中期経営計画「経営戦略2027」でもこの方針を続けると明言しています。配当が減りにくいという安心感は、長く持ちたい投資家にとって大きな意味があります。
  • ◆ 2つ目は大規模な自社株買いです。2026年3月期には約1兆円の自社株買いを実施しました。同じ期の配当総額が約4,085億円ですから、その2.5倍の規模です。自社株買いは会社が自分の株を買い戻すことで、市場に出回る株数が減り、1株当たりの利益や配当の価値が高まる効果があります。
ポイント3 いまの株価は、割安なのか割高なのか

「バフェットの会社が買っているなら安いに違いない」と考えるのは自然です。ですが、数字は少し違う景色を見せています。

指標 数値 やさしい意味
株価 4,860円 2026年9月2日の終値
時価総額 約18.0兆円 会社全体の値段。日本を代表する規模です
予想PER 16.2倍 利益の何年分の値段が付いているか。数字が小さいほど割安と見ます
実績PBR 1.85倍 会社の純資産の何倍の値段か。1倍が一つの目安です
予想配当利回り 2.57% 株価に対して1年間に受け取れる配当の割合
年初来の高値と安値 6,012円 / 3,610円 2026年の値動きの幅。上下でおよそ1.7倍の開きがあります

出典:Yahoo!ファイナンス(2026年9月2日時点)。PERは会社予想ベース、PBRとROEは実績ベース。

バフェット氏が買い始めた2019年ごろ、商社株のPERは1桁台で、PBRも1倍を大きく下回っていました。当時は誰の目にも明らかな「バーゲンセール」でした。しかし今の三菱商事はPBR1.85倍、予想PER16倍台です。もはや放置された割安株ではありません。株価はすでに大きく評価されています。

加えて、ROEが8.5%と5大商社の中で最も低い点も気になります。ROEは投じられた自己資本を使ってどれだけ効率よく稼いだかを示す指標で、伊藤忠商事が14.6%、住友商事が12.9%、三井物産が10.2%ですから、三菱商事は見劣りします。利益の絶対額は大きいのに資本が厚すぎるため、効率が下がっているという構図です。1兆円の自社株買いは、この課題への回答でもあります。

5大商社を横に並べてみる
会社名 2027年3月期の純利益計画 特徴
三菱商事(8058) 1兆1,000億円 規模は最大。LNGと金属資源が柱で、資源価格の影響を受けやすい
伊藤忠商事(8001) 9,500億円 非資源に強く、3期連続の最高益予想。ROEも最高水準
三井物産(8031) 9,200億円 米国ガス事業が好調。年間配当を25円増やす計画
住友商事(8053) 過去最高益を計画 SCSKの完全子会社化などが寄与。株式4分割も実施
丸紅(8002) 前期比7%増で過去最高益 穀物と電力が強み。総還元性向を40%に引き上げ

出典:各社の2026年5月1日発表の決算資料および報道。バークシャーは現在、この5社すべてで保有比率が10%を超えています。

初心者が気をつけたい、3つの落とし穴

1つ目は、バークシャーと同じ土俵に立てないことです。年1.2%程度で円を借りて日本株を持つという手法は、個人には再現できません。同じ銘柄を買っても、リターンの構造はまったく別物です。「同じ株を持てば同じ結果になる」わけではないことを、まず押さえておきましょう。

2つ目は、株価がすでに動いた後だということです。2026年の三菱商事は1月に3,610円の安値をつけ、5月には6,012円まで上昇しました。ニュースが出た時点は、多くの場合すでに情報が織り込まれ始めています。慌てて飛び乗ると、高いところを買ってしまいがちです。

3つ目は、商社は資源価格と為替に左右されることです。銅や石炭、LNGの価格が下がれば利益は縮みます。円高が進めば海外子会社からの利益は目減りします。会社の努力ではどうにもならない外部要因が、業績を大きく揺らします。実際、2026年3月期は減損損失も重なりました。

具体例 いま100株買うと、どうなるのか

数字を自分ごとにするために、実際に計算してみましょう。日本株は通常100株単位で売買します。

必要な資金

4,860円 × 100株 = 486,000円
NISAの成長投資枠であれば、年間240万円の枠に十分収まります。

1年間で受け取る配当

125円 × 100株 = 12,500円(税引き前)
課税口座なら約20%が引かれ、手取りはおよそ9,960円です。

ここで大事なのは、配当で年間1万2,500円を受け取る一方、株価が5%動けば24,300円が増減するという事実です。配当の安心感に目を奪われると、値動きの大きさを見落とします。年初来の高値と安値の差が2,400円あったことを思い出してください。100株なら24万円の差です。

では、どう向き合えばよいのでしょうか。

一度に全額を投じるのではなく、時期を分けて少しずつ買う方法があります。毎月一定額を買う積み立てにすれば、高いときは少なく、安いときは多く買えるため、平均取得単価がならされます。

また、商社1社に集中させず、値動きの傾向が異なる資産と組み合わせることも有効です。全世界株式のインデックスファンドを土台にして、個別株はその一部として持つ。この形なら、1銘柄の変動が資産全体を揺らしすぎることはありません。

まとめ このニュースから読み取るべきこと

今回の出来事を、投資判断のヒントとして整理します。

  • ▶ バークシャーの新CEOは、5大商社株を何十年も保有する意向を明言し、さらなる買い増しと共同投資にも前向きな姿勢を示しました。当初の9.9%という上限を各社との合意で引き上げ、実際に10%超まで買い進めた行動が、その本気度を裏づけています。
  • ▶ 三菱商事は2026年3月期に一時的な要因で減益となりましたが、2027年3月期は純利益1兆1,000億円という強気の計画を掲げ、第1四半期は好調に立ち上がっています。累進配当と大規模な自社株買いという還元姿勢も明確です。
  • ▶ 一方で、PBR1.85倍、予想PER16倍台という水準は、バフェット氏が買い始めた当時の割安さとは別物です。ROEも5社中で最も低く、株価には期待がすでに相当織り込まれています。
  • ▶ 資源価格と為替という、自分ではコントロールできない要因に業績が左右される点は変わりません。買うと決めたなら、時期を分ける、他の資産と組み合わせるといった工夫で、値動きの影響をやわらげることが大切です。

投資の世界には「有名な投資家が買った銘柄を追いかける」という誘惑が常にあります。ただ、彼らが買った価格、借りたお金のコスト、想定している保有期間は、私たちのそれとは違います。大切なのは、真似をすることではなく、なぜ彼らがそれを選んだのかという理由を理解することです。

今回のニュースが教えてくれたのは、「安定して現金を生み、株主にきちんと還元し、経営が信頼できる会社を、長い時間軸で持つ」という考え方そのものでした。この視点は、三菱商事を買うかどうかにかかわらず、これから投資を続けていくすべての人にとって役立つはずです。

本記事は2026年9月3日時点で公開されている情報をもとに作成した情報提供を目的とするものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。株価や業績予想は変動します。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。

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