東京・原宿の路面に、開店前から行列ができるアパレルブランドがあります。値引きセールは一度もやりません。それなのに、売上のうち3割以上が利益として残ります。そんな「教科書に載っていないような会社」が、2025年11月に東京証券取引所グロース市場へ上場しました。銘柄名はヒュマメイド(HUMAN MADE、銘柄コード456A)です。この記事では、資産運用を始めたばかりの方に向けて、この会社の中身と株価の見方を、専門用語をかみくだきながら丁寧に解説していきます。
「服の会社なんて、流行り廃りが激しくて投資には向かないのでは」と思った方もいるかもしれません。実は私も最初はそう思っていました。ところが決算資料を開いてみると、そこにあったのは一般的なアパレル企業とはまったく違う数字の並びでした。しかも同社は、2026年9月に過去最大の旗艦店を原宿にオープンし、中国と米国への本格進出も控えています。まさに今、大きな転換点に立っている銘柄なのです。
なお、この記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は2026年8月時点で公表されている決算短信や決算説明資料などをもとにしています。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。
HUMAN MADE株式会社は、2016年に設立された東京都品川区の会社です。手がけているのは、同名のライフスタイルブランド「HUMAN MADE」。Tシャツやスウェットといった衣料品を中心に、マグカップやバッグなどの生活雑貨まで幅広く展開しています。無添加カレーのお店「CURRY UP」の運営や、企業とのコラボレーション事業も行っています。
このブランドを生み出したのが、NIGO(ニゴー、本名は長尾智明)氏です。1990年代の原宿で「A BATHING APE」を立ち上げ、いわゆる裏原宿ブームを牽引した人物として知られています。その後もユニクロのUTのクリエイティブディレクター、フランスの高級ブランドKENZOのアーティスティックディレクターを歴任するなど、世界のファッション業界で名前が通ったデザイナーです。
ここで押さえておきたいのは、同社がクリエイティブと経営をはっきり分けているという点です。NIGO氏は2024年に取締役を退任し、現在はクリエイティブディレクターとしてデザインに専念しています。経営の舵取りを担うのは、ファーストリテイリング出身の松沼礼CEO、監査法人出身の柳澤純一CFO、そしてサンリオでキャラクターの海外展開を主導した鳩山玲人CSOという布陣です。デザイナーの感性を、ビジネスとして継続的に回す仕組みが作られているわけです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 銘柄名・コード | HUMAN MADE(ヒュマメイド)/456A |
| 上場市場・上場日 | 東証グロース市場/2025年11月27日 |
| 業種 | 小売業(衣料品・服飾雑貨) |
| 決算期 | 1月期(2月から翌年1月まで) |
| 公開価格・初値 | 3,130円/3,440円(初値は公開価格を9.9パーセント上回る) |
| 単元株数 | 100株 |
初心者向けの用語解説:グロース市場とは
東京証券取引所には、プライム、スタンダード、グロースという3つの市場があります。グロース市場は、これから成長していく段階の会社が集まる市場です。成長への期待が大きい半面、業績や株価の振れ幅が大きくなりやすいという特徴があります。ヒュマメイドもこのグロース市場に上場しています。
まずは業績を見てみましょう。2026年1月期(2025年2月から2026年1月まで)の実績は、売上高142億7,300万円(前期比26.8パーセント増)、営業利益45億3,100万円(同42.5パーセント増)でした。売上の伸び以上に利益が伸びており、設立以来ずっと増収増益を続けています。
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|
| 2022年1月期 | 32.4億円 | 6.7億円 | 約21パーセント |
| 2023年1月期 | 54.5億円 | 12.5億円 | 約23パーセント |
| 2024年1月期 | 83.9億円 | 22.5億円 | 約27パーセント |
| 2025年1月期 | 112.6億円 | 31.8億円 | 約28パーセント |
| 2026年1月期 | 142.7億円 | 45.3億円 | 約32パーセント |
| 2027年1月期(会社予想) | 185.0億円 | 48.0億円 | 約26パーセント |
注目していただきたいのは、いちばん右の営業利益率です。営業利益率とは、売上100円あたり、本業でいくら利益が残ったかを示す割合のことです。アパレル業界では5パーセント前後でも健闘しているといわれる指標で、たとえば同じ衣料品を扱うユナイテッドアローズの2026年3月期は、売上高1,646億円に対して営業利益91億円、営業利益率にすると約5.5パーセントでした。ヒュマメイドの32パーセントという水準が、いかに桁違いかがわかります。
理由はシンプルで、安く売らないからです。同社は設立から2026年1月期まで、プロパー消化率100パーセントを続けています。プロパー消化率とは、売った商品のうち定価で売れたものの割合のこと。100パーセントということは、値引き販売を一切していないという意味です。
普通のアパレル企業は、シーズンの終わりにセールをして在庫を現金に換えます。しかしセールをすれば、その分だけ利益は削られます。ヒュマメイドは、そもそも需要に対して作りすぎないという方針を取っています。売れるからといって供給量を一気に増やすと、ブランドの希少性が薄れてしまうためです。結果として2026年1月期の売上総利益率(粗利率)は65.4パーセントに達しました。
さらに驚くのが店舗の効率です。同社が公表している店舗別のデータによると、大阪の心斎橋PARCO店は面積わずか23.47平方メートル、つまり6畳間3つ分ほどの広さで、2026年1月期に約14億9,000万円を売り上げています。渋谷PARCO店も26.01平方メートルで約12億4,000万円です。小さな売り場に人が押し寄せ、置いた商品が定価のまま売り切れていく。これが同社の収益構造の正体です。
海外向け売上比率65パーセント
2026年1月期の売上のうち、海外のお客様向け(国内店舗での免税売上を含む)が65パーセントを占めます。国内の会社でありながら、稼ぎの主役はすでに海外です。
自己資本比率82パーセント
借金にほとんど頼らずに事業を回しています。自己資本比率とは、会社の資産のうち返さなくてよいお金の割合のことで、高いほど財務は安全とされます。
ROE33パーセント
ROEは株主のお金をどれだけ効率よく増やしたかを示す指標です。日本企業の平均が10パーセント前後といわれるなかで、際立って高い水準です。
広告費はほぼゼロ
世界的なアーティストや企業とのコラボ、そしてSNSでの拡散が宣伝の中心です。大量の広告費をかけずに認知が広がる構造になっています。
ここが、この銘柄をおもしろくしている部分です。先ほどの表をもう一度見てください。2027年1月期の会社予想は、売上高が29.6パーセント増と大きく伸びるのに、営業利益は5.9パーセント増にとどまり、営業利益率は32パーセントから26パーセントへ下がる見込みです。
業績が悪化したわけではありません。会社は今期を「28年1月期以降の成長に向けた準備期間」と位置づけ、意図的に費用を先に使っています。具体的には、旗艦店の開店前の家賃や、海外子会社の立ち上げ費用など、およそ10億円の一時的なコストが発生する計画です。会社の試算では、これらを除いた実力ベースの営業利益率は30.8パーセントを維持できるとしています。
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1
原宿に過去最大の旗艦店をオープン
2026年9月に、東京都渋谷区神宮前の明治通り沿いへ「HUMAN MADE TOKYO」を開きます。延べ床面積は595平方メートルで、これまでの主力店の20倍を超える規模です。会社は年間20億円から30億円の売上を見込んでいます。 -
2
中国と米国へ本格進出
2026年3月に中国と米国で現地法人を設立しました。上海では中心部の静安区に旗艦店規模の物件を、ニューヨークではSOHOの物件を確保済みです。ただし本格的な事業開始は2027年2月以降の予定で、今期は費用だけが先に出ます。 -
3
新ブランド「Buffer」の育成
2026年4月に渋谷で始動した新ブランドです。投入した商品が即完売する状況が続いていると会社は説明しています。規模はまだ小さく業績への影響は限定的ですが、長期的な二本目の柱として育てる方針です。
直近の進捗も見ておきましょう。2027年1月期第1四半期(2026年2月から4月)は、売上高42億9,900万円で前年同期比59.6パーセント増、営業利益12億3,300万円で同75.9パーセント増と好調でした。会社が事前に示していた38億円から42億円というガイダンス(見通し)の上限を上回っての着地です。この四半期には神戸店とタイのバンコク店がオープンし、バンコクでは開店日に2,000人以上の行列ができたと報告されています。
投資家目線でのチェックポイント
先行投資型の会社を見るときは、「利益が減った」という表面の数字だけで判断しないことが大切です。減った理由が一時的な費用なのか、それとも商品が売れなくなったのかで、意味はまったく変わります。ヒュマメイドの場合、売上と粗利率は伸び続けており、いまのところ後者ではありません。次の四半期決算は2026年9月11日に発表される予定で、第2四半期の売上計画は40億円から44億円とされています。
ここからは具体例として、株価の動きを追ってみます。上場時の公開価格は3,130円、初値は3,440円でした。その後、業績の好調さが評価されて株価は上昇し、2026年3月には5,000円台後半まで買われる場面がありました。そして2026年5月1日付で1株を4株に分割しています。
株式分割とは、1枚のピザを4等分するようなものです。1株の値段は4分の1になりますが、持っている株数は4倍になるので、資産価値そのものは変わりません。ただし1単元(100株)を買うのに必要な金額が下がるため、少額から投資しやすくなるという効果があります。分割前の株価と後の株価を単純に比べると勘違いのもとになるので、注意してください。
| 時期 | 株価(分割調整後の換算) | 出来事 |
|---|---|---|
| 2025年11月27日 | 約860円(初値3,440円) | 東証グロース市場へ上場 |
| 2026年3月16日 | - | 通期決算を発表し、株式分割と旗艦店計画も公表 |
| 2026年4月中旬 | 約1,400円台(分割前5,000円台後半) | 上場来高値の水準まで上昇 |
| 2026年5月1日 | - | 1株を4株に分割 |
| 2026年8月中旬 | 1,300円台後半から1,400円前後 | 旗艦店オープンを控えた小動き |
この価格帯で計算すると、時価総額はおよそ1,200億円台です。時価総額とは、株価に発行済みの株数をかけたもので、「この会社を丸ごと買うといくらか」を表します。
そして初心者の方がいちばん気になるであろう割高か割安かの物差しが、PER(株価収益率)です。PERは株価を1株あたりの利益で割った数字で、「いま出ている利益の何年分の値段が付いているか」を示します。会社予想の当期純利益33億円をもとに概算すると、PERはおよそ35倍から40倍という水準になります。東証プライム市場の平均が15倍から20倍程度であることを考えると、数字だけを見れば決して安くはありません。
この高いPERは、「今の利益」ではなく「これから海外で伸びる利益」を織り込んだ値段だと考えるとわかりやすくなります。会社は中期の目標として、成長性(売上と営業利益の年平均成長率)、収益性(営業利益率)、効率性(ROE)の3つすべてで30パーセント前後を掲げています。この目標に近い成長が続けば今の株価も正当化されますし、つまずけば評価は一気に切り下がる。そういう性質の銘柄です。なお現時点では配当は出ておらず、株主優待もありません。稼いだお金は成長投資に回す方針です。
ワクワクする材料が並ぶ会社ほど、リスクを冷静に確認しておく必要があります。主なものを4つ挙げます。
- ブランドと人への依存 同社の価値の源泉はブランドそのものです。トレンドが変わったり、ブランドイメージを損なう出来事が起きたりすれば、業績への影響は大きくなります。NIGO氏という個人の存在感が大きい点も、裏を返せばリスクです。
- 海外展開が計画通りに進まない可能性 中国と米国の店舗は、まだ費用だけが出ている段階です。現地で想定した集客が得られなければ、先行投資が重荷になります。
- インバウンドと為替への感応度 売上の多くを海外のお客様が支えています。円高が進んだり、訪日客の消費が鈍ったりすれば、追い風は向かい風に変わります。
- 株価の値動きの荒さ グロース市場の新興銘柄で、PERも高い水準にあります。決算の内容が少し予想を下回っただけでも、株価が大きく振れることがあります。上場からの期間が短く、株価の歴史がまだ浅い点にも留意が必要です。
だからこそ、こうした銘柄に興味を持ったときは、いきなり大きな金額を投じないことが大切です。資産全体のごく一部にとどめる、時期を分けて少しずつ買う、といった工夫が値動きの荒さへの備えになります。まずは決算発表のたびに数字を確認し、自分の仮説が当たっているかを検証していく。その積み重ねが、個別株と付き合ううえでいちばんの近道です。
ヒュマメイドという会社を通して見えてくるのは、「同じ業界にいても、稼ぎ方の設計しだいで利益率は5倍にも6倍にもなる」という事実です。値引きをしない、作りすぎない、自分たちの店とサイトで売る。この3つを徹底しただけで、アパレルという厳しい業界の常識が塗り替わりました。
- ヒュマメイド(456A)は2025年11月に東証グロース市場へ上場した、日本発のライフスタイルブランド企業です。
- 2026年1月期は売上高142.7億円、営業利益45.3億円。営業利益率32パーセントはアパレル業界では極めて異例の水準です。
- 値引きを一切しないプロパー消化率100パーセントと、自社の店舗とECを軸にした販売が高収益の土台になっています。
- 2027年1月期は旗艦店と海外進出の準備で費用が先行し、利益の伸びは一時的に鈍る計画です。理由を理解して数字を見ることが重要です。
- PERは35倍から40倍程度と将来の成長を織り込んだ水準です。期待が大きい分、想定が崩れたときの下落余地も大きくなります。
個別株を調べるという作業は、決して専門家だけのものではありません。決算説明資料は誰でも無料で読めますし、会社が自分の言葉で「なぜ今この投資をするのか」を語ってくれています。気になる銘柄を1社決めて、売上と利益の推移を5年分たどってみる。それだけで、ニュースの数字が急に立体的に見えてくるはずです。ヒュマメイドは、その練習台としてとても学びの多い会社だと思います。
2026年9月には原宿の旗艦店がオープンし、9月11日には第2四半期の決算発表も控えています。ちょうど今は、この会社の物語が次の章に進むタイミングです。投資をするかどうかは別にして、続きを追いかけてみると、きっとおもしろい発見があるはずです。
本記事は公開情報をもとにした情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載した数値は2026年8月時点で入手可能な決算短信、決算説明資料、各種報道などに基づいており、株価やその他の数値はその後変動している可能性があります。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。



【免責事項】
記事内のデータ・数値は2026年8月時点の情報をもとにしています。
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