世界一の投資家が「5社すべて10%超」まで買い進めた業界が、日本にあります。それが総合商社です。2026年5月の通期決算では首位が入れ替わり、8月の四半期決算では5社そろって増益。いま業界の中身は、想像以上に面白い方向へ動いています。
この記事では、資産運用の初心者の方に向けて、総合商社という業界の稼ぎ方を根本から解きほぐし、5社の最新の数字を横並びで読み解いていきます。
「商社って、結局なにを売っている会社なんですか」
投資を始めたばかりの方から、いちばんよく出てくる質問がこれです。トヨタなら車、任天堂ならゲーム。けれど商社は、名前を聞いても商品が浮かびません。ところが株式市場では、この「よく分からない業界」が長年にわたって主役級の存在感を放ち続けてきました。
2026年8月時点の日本株市場は、AI関連や半導体関連の値動きが激しく、上がるときも下がるときも一日で数パーセント動くことが珍しくありません。その荒っぽさに疲れた資金が、落ち着いて持てる銘柄へ回帰する動きも見られます。その受け皿の代表格が、総合商社です。
しかも今の商社は、昔ながらの「安くて配当が高いだけの株」ではなくなっています。資源の値段に振り回される会社から、自分で事業を育てて稼ぐ会社へ。その変身の途中経過が、いちばん新しい決算にはっきり出ています。順番に見ていきましょう。
総合商社とは、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅の5社を中心とする企業グループのことです。この5社をまとめて5大商社と呼びます。エネルギー、金属、食料、機械、繊維、金融、不動産まで、扱う分野が業界をまたいで極端に広いのが特徴です。
稼ぎ方は、大きく2つに分かれます。
売りたい人と買いたい人の間に立ち、手数料や売買の差額を受け取る仕事です。かつての商社はここが中心でした。物の値段が上がれば、同じ手数料率でも受け取る金額は大きくなります。インフレに強いと言われる理由の一つがこれです。
鉱山、発電所、コンビニ、食品メーカーなどに出資し、その会社の利益の一部を自社の利益として取り込む仕事です。今の商社の利益は、こちらが主役になっています。伊藤忠商事のファミリーマート、住友商事のSCSKなどが分かりやすい例です。
持分法による投資損益とは、出資先の会社が稼いだ利益のうち、自社の出資比率に応じた分を自社の利益に足す会計のルールです。たとえば20%出資している会社が100億円稼いだら、20億円分を自分の利益として計上します。商社の利益にはこの項目が大きく効いています。
資源と非資源という言い方もよく出てきます。資源は石炭、鉄鉱石、銅、液化天然ガス(LNG)など、値段が世界の市況で決まるもの。非資源は食品、コンビニ、機械、金融、不動産など、それ以外のすべてです。5社の性格の違いは、ほぼこの比率で決まります。
2026年5月1日、5大商社が同じ日に2026年3月期(2025年度)の通期決算を発表しました。結果は、業界の構造をそのまま映した内容でした。
| 会社名(証券コード) | 2026年3月期 純利益 | 2027年3月期 会社予想 | 性格 |
|---|---|---|---|
| 伊藤忠商事(8001) | 9,003(+2.3%) | 9,500(+5.5%) | 非資源が中心。ぶれが小さい |
| 三井物産(8031) | 8,339(マイナス7.4%) | 9,200(+10.3%) | 金属資源とエネルギーが柱 |
| 三菱商事(8058) | 8,004(マイナス15.8%) | 11,000(+37.4%) | 規模は最大。LNGと銅に強い |
| 住友商事(8053) | 6,003(+6.8%) | 6,300(+4.9%) | 自動車、不動産、デジタル |
| 丸紅(8002) | 5,438(+8.1%) | 5,800(+6.6%) | 電力、食料、銅にバランスよく |
数字を追うと、ストーリーが見えてきます。伊藤忠商事が純利益で初めて9,000億円台に乗せ、5大商社の首位に立ちました。ファミリーマートをはじめとする生活消費分野や、北米の電力事業など、資源以外の稼ぎが積み上がった結果です。住友商事と丸紅も過去最高益を更新しました。
一方で、三菱商事と三井物産は減益でした。ただしこれは業績が悪化したという話ではありません。前の年に事業を売って得た大きな一時的な利益がなくなった反動と、石炭や鉄鉱石の値下がりが重なったためです。両社とも会社の見通しを上回って着地しており、むしろ想定より強い決算でした。
そして注目は2027年3月期の計画です。三菱商事が前期比37.4%増の1兆1,000億円という強気の数字を掲げ、首位奪還を宣言しました。カナダのLNG事業が本格的に動き出すことと、米国のシェールガス事業を買収したことが背景にあります。5社すべてが増益計画という、めったにない構図になりました。
そして2026年8月上旬、2027年3月期の第1四半期(4〜6月)決算が出そろいました。結果は5社すべてが増益で、しかも5社すべてが市場予想を上回るという、めったにない好決算デーとなりました。
| 会社名 | 4〜6月の純利益 | 前年同期比 | 通期への進捗率 |
|---|---|---|---|
| 三菱商事 | 2,985億円 | +47% | 約27% |
| 三井物産 | 2,940億円 | +53% | 約32% |
| 伊藤忠商事 | 2,937億円 | +3% | 約31% |
| 住友商事 | 1,901億円 | +11% | 約30% |
| 丸紅 | 1,864億円 | +21% | 約32% |
三井物産と丸紅、伊藤忠商事は、第1四半期としては過去最高の利益を記録しました。追い風になったのは、中東情勢の緊張を背景とした銅やアルミ、原料炭などの資源高と、想定より円安で推移した為替です。商社は海外で稼ぐ比率が高いため、円安になると同じドルの利益でも円に直したときの金額が増えます。
面白いのは、5社とも通期の予想を据え置いたことです。数字は好調でも、中東情勢の先行きが読めないため、いったん様子を見た形です。ただし三菱商事、住友商事、丸紅は、9月末の中間決算で上方修正を検討する可能性に言及しています。今の商社株は「上方修正の期待が残された状態」にあるとも言えます。
1年を4つに割るので、単純に考えれば第1四半期で25%進んでいれば順調です。5社は約27%から32%ですから、計画を上回るペースということになります。決算の数字が難しく感じたら、まず進捗率だけ見る。これだけでも会社の調子はかなり分かります。ただし季節性のある事業では四半期ごとに偏りが出るため、前の年の同じ時期の進捗率と比べるのがコツです。
投資家にとって見逃せないのが、稼いだお金の使い方です。今の5大商社は、そろって株主への還元を強めています。
まず累進配当という方針です。これは「配当を減らさない。維持するか増やすかのどちらかにする」という会社からの約束のことです。5大商社はいずれもこの方針を掲げています。業績が資源価格で揺れる業界だからこそ、配当だけは安定させるという姿勢です。実際、2026年3月期から2027年3月期にかけて、三菱商事は1株110円から125円へ、三井物産は115円から140円へ、丸紅は107.5円から115円へと増配の予定を示しました。
もう一つが自社株買いです。会社が自分の株を市場から買い戻すことで、出回る株数が減り、1株あたりの利益が増えます。2026年8月の決算では、伊藤忠商事が最大3,000億円、三井物産が2,000億円、丸紅が追加で1,000億円と、大型の発表が相次ぎました。
ここは初心者の方がいちばん誤解しやすいところなので、はっきり書いておきます。商社株は数年前まで配当利回り4%から5%の高配当株の代表でしたが、株価が大きく上がった結果、今の利回りはかなり下がっています。
| 会社名 | 株価 | PER | PBR | 配当利回り |
|---|---|---|---|---|
| 三菱商事 | 4,916円 | 16.36倍 | 1.91倍 | 2.54% |
| 三井物産 | 4,970円 | 15.31倍 | 1.61倍 | 2.82% |
| 伊藤忠商事 | 1,971円 | 14.41倍 | 2.09倍 | 2.23% |
| 住友商事 | 1,629円 | 12.34倍 | 1.68倍 | 2.46% |
| 丸紅 | 5,384円 | 15.18倍 | 2.02倍 | 2.14% |
PERは株価が1株あたり利益の何倍かを示す指標で、低いほど割安とされます。PBRは株価が1株あたり純資産の何倍かを示し、こちらも低いほど割安とされます。表を見ると、PERで最も低いのは住友商事、PBRで最も低いのは三井物産、配当利回りで最も高いのは三井物産という並びになります。
ただし数字が低いことには理由があるのが普通です。資源比率が高い会社は業績のぶれが大きいため、市場は将来の利益を控えめに評価しがちです。「割安だから買い」ではなく、「なぜ割安に置かれているのかを説明できるか」が本当の判断基準です。
総合商社を語るうえで外せないのが、米国のバークシャー・ハサウェイです。ウォーレン・バフェット氏が率いてきた投資会社で、2019年から5大商社の株を買い続けてきました。
当初は「5社それぞれ10%を超えない」という約束でしたが、各社の合意でその上限がゆるめられ、保有比率は少しずつ引き上げられてきました。そして2026年5月、住友商事と丸紅の保有比率が10%を超えたことで、5社すべてで10%超の株主となりました。三菱商事は10.23%、伊藤忠商事は10.07%、住友商事は10.05%、丸紅は10.10%です。
海外の報道によれば、2025年末の時点で5社への投資額は合計で約154億ドル、その時価は約354億ドルに膨らんでいます。日本円にすると、投じたお金がおよそ2.3倍になった計算です。バフェット氏はCEOを退き、後任のグレッグ・アベル氏が経営を引き継ぎましたが、商社株を長期で保有する方針は変わっていません。
なぜバークシャーは商社を選んだのか。理由としてよく挙げられるのは、事業が分散していて景気の波に耐えやすいこと、資本の使い方が規律的であること、配当と自社株買いで株主に報いる姿勢が明確であること、そして日本で低い金利の円建て社債を発行して資金を調達できることです。安く借りたお金で、より高い配当を受け取る。この構図が長期投資の土台になっています。
ここが、この記事でいちばんワクワクするところかもしれません。生成AIの普及でデータセンターが世界中で建ち、その電気をどう確保するかが最大の課題になっています。そしてこの分野は、資源とインフラと物流をまとめて扱える商社の得意技そのものです。
- 三菱商事は、カナダのLNG事業が本格稼働して黒字に転換し、さらに米国のシェールガス事業を買収しました。国内でもデータセンターを複数運用しています。
- 三井物産は米国の天然ガス事業を拡大し、4〜6月期はエネルギー部門の利益が前年同期比で8割以上増えました。
- 伊藤忠商事は北米の電力事業が伸びたほか、米国の航空機リース会社へおよそ3,000億円を出資しました。今期の成長投資枠1.2兆円は、早くも半分以上が動いています。
- 住友商事はシステム開発会社SCSKを完全子会社にし、デジタル領域を厚くしました。この効果が4〜6月期の利益にも表れています。
- 丸紅は世界で12ギガワットを超える発電事業を持ち、電力部門の売上総利益を大きく伸ばしています。
電気を作って売る契約は、多くの場合10年、20年という長い期間で結ばれます。つまりこの分野の利益は、資源価格のように毎年上下するのではなく、じわじわと積み上がる性質を持っています。商社の利益の「ぶれ」が小さくなっていくとすれば、株式市場の評価も変わってくる可能性があります。
-
1
利益の中身を「資源」と「非資源」に分けて見る
各社の決算説明資料には、部門ごとの利益が必ず載っています。資源の割合が高い会社は、値上がり局面で大きく伸びる代わりに、値下がり局面では下げも大きくなります。自分がどちらの値動きに耐えられるかを、先に決めておくと迷いません。
-
2
会社が置いている為替の前提を確認する
各社は業績予想を立てるときに「1ドル何円」という前提を置いています。たとえば三菱商事は1ドル150円を前提にしていますが、4〜6月期の実勢は157円台でした。前提より円安なら利益は上振れしやすく、円高なら逆になります。この差は、決算短信や説明資料で誰でも確認できます。
-
3
還元方針を「配当だけ」で判断しない
今の商社は自社株買いにも力を入れています。配当利回りが2%台でも、自社株買いを合わせた実質的な還元はもっと大きくなります。配当と自社株買いの合計額が純利益の何割かという視点で見ると、会社の姿勢がよく分かります。
ここまで良い話が続きましたので、逆側も同じ熱量で書いておきます。総合商社は、外の環境に業績が動かされやすい業界です。
- 資源価格の反落。今の好決算は中東情勢を背景とした資源高に支えられている面があります。情勢が落ち着けば、価格も戻る可能性があります。
- 円高への転換。2026年8月には日米両政府による円買いの協調介入があり、ドル円は一時的に大きく円高へ振れました。円高は商社の利益を押し下げます。
- 個別の投資先で起きる損失。事業投資が主役ということは、出資先が傾けばその分の損失も取り込むということです。実際に、取引先の経営破綻を受けて出資先が大きな赤字となり、商社側の利益を押し下げた例もありました。
- 株価の位置。過去5年で商社株は大きく上昇しました。以前のような割安さは薄れており、期待に届かない決算では素直に売られます。実際、好決算だった2026年8月も、株価の反応は決算の強さほどではありませんでした。
- 2026年3月期は伊藤忠商事が純利益9,003億円で初の首位。住友商事と丸紅も過去最高益を更新した
- 2027年3月期は5社そろって増益計画。三菱商事は37.4%増の1兆1,000億円という強気の目標を掲げた
- 2026年4〜6月期は5社すべてが増益かつ市場予想超え。進捗率も約27%から32%と順調で、中間決算での上方修正が意識されている
- 累進配当と大型の自社株買いが定着。ただし株価上昇で配当利回りは2%台に低下しており、昔の高配当イメージは更新が必要
- バークシャー・ハサウェイは5社すべてで10%超の株主に。長期保有の方針は経営者交代後も継続している
- 次の主役はAI時代の電力とインフラ。長期契約に支えられた利益が積み上がるかどうかが、中期の見どころ
総合商社という業界は、外から見ると分かりにくい存在です。けれど中を開けてみると、鉱山からコンビニまで、そしてLNGからデータセンターまで、世界の産業構造の変化がそのまま映し出されています。1社を調べるだけで、世界経済の見取り図が手に入る。これが商社を学ぶいちばんの面白さです。
まずは気になった1社の決算説明資料を開いて、部門ごとの利益の内訳だけでも眺めてみてください。数字の裏側に、驚くほど具体的な事業の物語が並んでいます。そこが、投資が「作業」から「探検」に変わる瞬間です。
本記事は2026年8月21日時点で公開されている各社の決算短信、決算説明資料、および国内外の報道をもとに作成した情報提供を目的とした記事であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。株価および各指標は日々変動します。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。






コメント