2026年8月21日、米国株式市場である銘柄が1日で13パーセント以上も跳ね上がりました。前日の終値95.10ドルから、取引時間中には一時109.71ドルまで急上昇。たった1日で会社の価値がおよそ100億ドル、日本円で1兆5000億円以上も増えた計算になります。
その銘柄が、ロビンフッド・マーケッツ(ティッカー:HOOD)です。
「手数料ゼロのスマホ証券」から始まった会社が、いまや予測市場・暗号資産・未公開株までを扱う総合プラットフォームに変わりつつあります。この記事では、最新の決算数字をもとに、ロビンフッドがどうやって稼いでいるのか、どこに成長の芽があり、どこにリスクが潜んでいるのかを、投資をはじめたばかりの方にも分かる言葉で整理していきます。
本文中の株価・指標は2026年8月21日終値時点、決算は2026年第2四半期(4月〜6月期、7月29日発表)の公表値をもとにしています。為替は1ドル159円前後で計算しています。
ロビンフッドは、2013年にアメリカで生まれたネット証券です。パソコンではなくスマートフォンを前提に設計され、株式やETFの売買手数料を無料にしたことで一気に広まりました。日本でいえば、スマホ完結型の証券アプリが一気に若年層を取り込んだイメージに近いです。
2021年にナスダックへ上場。当初は「ゲーム感覚で投資させる会社」と批判されることもありましたが、その後はサービスの幅を広げ続け、2026年時点では株式・ETF・オプション・先物・暗号資産・予測市場、さらにはクレジットカードや銀行サービス、退職口座まで扱う存在になっています。
現在の顧客数はおよそ2840万人。預かり資産は3690億ドル(約58兆円)に達しています。アメリカの個人投資家の入り口として、無視できない規模まで育った会社だと言えます。
初心者の方が最初に不思議に思うのが、この点だと思います。売買手数料が無料なら、証券会社は何で稼いでいるのでしょうか。答えは、収益源が大きく3つに分かれているからです。
-
1
取引関連収益
個人からの注文を、取引を仲介する専門業者(マーケットメイカー)に回し、その対価を受け取る仕組みです。これをPFOFと呼びます。オプション、株式、暗号資産、予測市場の取引が活発なほど増えます。 -
2
金利収入
顧客が口座に置いたままの現金や、証拠金取引(お金を借りて株を買う取引)の貸付金から得る利息です。相場が動かない時期でも入ってくる、安定感のある収益です。 -
3
その他の収益
月額5ドルの有料会員サービス「ロビンフッド・ゴールド」の会費や、政府向けサービスの受託収益などです。毎月決まって入るサブスクリプション型の収益が増えている点が注目されています。
用語のかみ砕き:PFOF(ペイメント・フォー・オーダー・フロー)
日本語では「注文回送料」と訳されます。あなたが「この株を買いたい」と注文を出すと、証券会社はその注文を売買の相手役になる業者へ渡します。業者はごくわずかな価格差から利益を得るため、注文を回してくれた証券会社にお礼としてお金を払います。この受取分が、手数料無料を成り立たせている仕組みです。
7月29日に発表された最新決算は、市場予想を上回る内容でした。主な数字を整理します。
| 項目 | 2026年4〜6月期 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 売上高(純収益) | 13億800万ドル | プラス32パーセント |
| 純利益 | 5億7300万ドル | プラス48パーセント |
| 1株利益(希薄化後) | 0.62ドル | プラス48パーセント |
| 調整後EBITDA | 7億4100万ドル(利益率57パーセント) | プラス35パーセント |
| 入金額(純ベース) | 217億ドル(過去最高) | 年率換算28パーセントの資産成長 |
| 顧客数 | 2840万人 | プラス7パーセント |
| ゴールド会員 | 480万人 | プラス39パーセント |
| 顧客1人あたり収益(ARPU) | 187ドル | プラス24パーセント |
特に注目したいのは顧客数の伸び(7パーセント)よりも、1人あたり収益の伸び(24パーセント)のほうが大きい点です。人数を増やすフェーズから、1人の顧客により多くのサービスを使ってもらうフェーズへ移っていることが数字に表れています。
用語のかみ砕き:ARPUと調整後EBITDA
ARPUは「顧客1人あたりの年間収益」のことです。同じ人数でもARPUが上がれば売上は伸びます。調整後EBITDAは、本業でどれだけ現金を稼ぐ力があるかを見るための利益指標で、税金や設備の償却などを除いて計算します。利益率57パーセントは、金融プラットフォームとしてかなり高い水準です。
売上が32パーセント伸びたと聞くと「暗号資産が儲かったのだろう」と思いがちですが、実は違います。中身を分解してみましょう。
| 収益の内訳 | 金額 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| オプション取引 | 3億4200万ドル | プラス29パーセント |
| イベント契約(予測市場) | 1億5600万ドル | 10倍超 |
| 株式取引 | 1億2900万ドル | プラス95パーセント |
| 暗号資産取引 | 1億ドル | マイナス38パーセント |
| 金利収入 | 3億8900万ドル | プラス9パーセント |
| その他(ゴールド会費など) | 1億4300万ドル | プラス54パーセント |
ここが今回の記事でいちばんお伝えしたい部分です。暗号資産の収益は前年より38パーセントも減っているのに、会社全体の売上は32パーセント伸びています。暗号資産が売上に占める割合は、すでに1割を切る水準です。つまりロビンフッドは、「暗号資産の会社」から「稼ぎ方が分散した金融プラットフォーム」へ姿を変えつつあるのです。
最も勢いがあるのが、イベント契約と呼ばれる予測市場です。「選挙の結果はどうなるか」「あのスポーツの試合はどちらが勝つか」といった出来事の結果を、はい・いいえの形で売買できる金融商品です。この四半期の取引枚数は136億枚と、前年の10倍以上に膨らみました。ロビンフッドは自前の取引所も立ち上げ、この分野を主力事業のひとつに育てようとしています。
トークン化とは、株式などの資産をブロックチェーン上で扱えるデジタルな形に置き換えることです。24時間いつでも売買でき、1株未満の細かい単位でも扱えるようになると期待されています。ロビンフッドはすでに120か国以上で米国株のトークンを提供していますが、肝心の米国内では規制上まだ提供できていません。
8月21日の急騰は、まさにここが材料でした。ホワイトハウスで開かれた暗号資産関連の会合を受け、大統領が議会に規制の枠組みを定める法案の可決を促したことで、「米国でもトークン化が解禁されるかもしれない」という期待が一気に高まったのです。同時にビットコインが1日で7パーセント以上上昇したことも追い風になりました。
- 未公開株ファンド 上場していないスタートアップに個人が投資できる上場ファンドを次々に設定。2本目のファンドは1株25ドルで800万株を売り出し、約2億2550万ドルの規模になりました。
- クレジットカード ゴールドカードの利用者は100万人を突破し、年間換算の決済額は170億ドル規模に。年換算収益が1億ドルを超える事業に育ちました。
- 政府関連の口座サービス 7月に始まった新しい制度口座の運営を受託し、開始から短期間で700万件を超える申し込みと約15億ドルの入金を集めました。
- AIによる自動売買 5月に始めたAIエージェント経由の取引には、すでに約10万口座が開設されています。
会社側の説明によれば、年間換算で1億ドル以上を稼ぐ事業がすでに13本あります。ひとつの事業が不調でも、他の事業が支える構造になりつつあるということです。
ここからが冷静に見るべきパートです。ビジネスが好調でも、株価がすでにその好調さを織り込んでいれば、投資家にとっての妙味は減ってしまいます。
| 項目 | 数値(2026年8月21日時点) |
|---|---|
| 株価 | 108.13ドル(約1万7200円) |
| 52週の値幅 | 63.52ドル〜153.86ドル |
| 年初来 | 年初の113.10ドルからみると、なお下回る水準 |
| PER(実績ベース) | おおむね40倍台(集計元により差あり) |
| PER(予想ベース) | 38倍前後 |
| PSR(売上高倍率) | 17倍前後 |
| ROE(自己資本利益率) | 約23.6パーセント |
| 配当 | なし(成長投資と自社株買いを優先) |
用語のかみ砕き:PERとPSR
PERは「株価が1年分の利益の何倍か」を示します。40倍なら、いまの利益水準が続くと仮定して元が取れるまで40年かかる計算です。高いほど将来の成長への期待が大きいことを意味します。PSRは利益ではなく売上に対する倍率で、成長企業の割高感を測るときによく使われます。
| 企業 | ティッカー | 予想PERの目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ロビンフッド | HOOD | 38倍前後 | 高成長。個人向けに幅広い商品。無配 |
| コインベース | COIN | 66倍〜70倍 | 暗号資産の比重が高く、直近12か月は最終赤字 |
| インタラクティブ・ブローカーズ | IBKR | 30倍前後 | プロ寄りの世界的ネット証券。少額の配当あり |
| チャールズ・シュワブ | SCHW | 15倍前後 | 米国最大級の伝統的証券。安定重視で配当あり |
数値は各種株式情報サイトの2026年6月〜8月時点の集計値をもとにした目安です。算出方法により差が出ます。
この表から読み取れることは明快です。ロビンフッドは、老舗のシュワブより明らかに割高、暗号資産色の強いコインベースよりは割安という中間の位置にいます。つまり市場は「暗号資産の一発屋ではないが、伝統的証券会社とも違う成長企業」として値付けしているわけです。
アナリストの評価は強気が優勢です。集計では18人中15人が買い推奨、平均目標株価はおよそ123ドルから125ドル。強気派の証券会社は160ドルという目標を出しています。一方で最も慎重な目標株価は100ドルと、8月21日の終値を下回ります。著名なストラテジストの中には「2026年は避けたい銘柄」と名指しした人もいます。プロの間でも意見が真っ二つに割れている銘柄だという事実は、頭に入れておきたいところです。
- ▶値動きの激しさ この1年で5パーセント以上動いた日が50回を超えています。市場全体の2倍以上動きやすい性質があり、1日で10パーセント以上動くこともめずらしくありません。
- ▶相場環境への依存 収益の多くは取引の活発さから生まれます。相場が冷え込んで個人投資家の売買が細れば、業績は素直に鈍ります。
- ▶規制の不確実性 トークン化の解禁を左右する法案は、議会での議論が難航しています。期待だけで上がった分は、期待が剥がれれば戻ります。
- ▶借入の増加 6月に転換社債で22億ドルを調達しました。成長投資の余力は増えましたが、財務のレバレッジも高まっています。
数字を身近な感覚に置き換えてみます。1ドル159円として、株価108.13ドルは日本円でおよそ1万7200円です。米国株は1株から買えるので、10万円あれば5株から6株を購入できます。
10万円分を保有していた場合の値動きイメージ
- 8月21日のような1日で13パーセント上昇した日 プラス約1万3000円
- 52週高値の153.86ドルで買っていて現在まで保有 マイナス約3万円
- 52週安値の63.52ドルで買えていた場合 プラス約7万円
同じ銘柄でも、買ったタイミングによって結果がここまで変わります。この振れ幅の大きさこそが、ロビンフッド株のいちばんの特徴です。
では初心者はどう向き合えばよいのでしょうか。一般的に語られる考え方は、資産全体をインデックスファンドなどの土台部分と、値動きの大きい個別株の部分に分けて考えるというものです。土台をしっかり作ったうえで、値動きの激しい銘柄は「半分になっても生活も気持ちも揺らがない金額」にとどめる。この線引きができていれば、13パーセント下げた日でも冷静でいられます。
さらに、米国株には為替という要素も加わります。株価が変わらなくても、円高が進めば円換算の資産は目減りします。株の値動きと為替の値動き、二重のブレを受け入れられるかどうかも判断材料になります。
この銘柄を追いかけるなら、株価そのものよりも次の指標を見るほうが本質に近づけます。次回の四半期決算は2026年11月上旬に予定されています。
| 見るべき数字 | なぜ大事か |
|---|---|
| 純入金額 | 顧客が新たに預けたお金の量。将来の収益の源泉であり、会社への信頼度そのもの |
| ゴールド会員数 | 毎月安定して入る会費収入。相場が悪い時期の支えになる |
| イベント契約の収益 | 最も成長が速い分野。10倍成長が続くのか、一時的な盛り上がりだったのかが分かる |
| 暗号資産収益の比率 | 暗号資産への依存度。低いほど値動きの理由が本業寄りになる |
ロビンフッド・マーケッツは、手数料無料のスマホ証券という出発点から、収益源を大きく広げてきた会社です。最新の決算では売上が32パーセント伸び、利益率も高い水準を保ちました。暗号資産の収益が4割近く減ってもなお全体が伸びたという事実は、事業の分散が進んだ何よりの証拠です。
一方で、株価は将来の成長をかなり織り込んだ水準にあります。PERは同業の伝統的証券会社の2倍以上。1日で13パーセント動くような値動きの激しさもあり、「良い会社」であることと「今の株価で買って報われるか」は別の問題だという、投資の基本をあらためて突きつけてくる銘柄でもあります。
- ▶売上13億800万ドル(プラス32パーセント)、純利益5億7300万ドル(プラス48パーセント)と過去最高の決算
- ▶暗号資産はマイナス38パーセントでも全体は成長。年換算1億ドル超の事業が13本に増え、稼ぎ方が分散した
- ▶成長の軸は予測市場、株式のトークン化、未公開株やカードなど個人向けの新領域
- ▶予想PERは38倍前後。シュワブより割高、コインベースより割安という中間の位置づけ
- ▶値動きの激しさ、規制の不確実性、借入の増加という3点は必ずセットで意識する
米国株の面白さは、こうした「いま形が変わりつつある会社」を、日本にいながら1株単位で追いかけられるところにあります。まずは決算の数字を自分の目で確かめる習慣をつけるところから始めてみてください。その積み重ねが、値動きに振り回されない投資判断につながっていきます。
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載した株価・指標・業績数値は執筆時点(2026年8月21日終値および2026年7月29日発表の決算資料)で公開されている情報をもとにしており、その後の状況変化や集計方法の違いにより実際の数値と異なる場合があります。投資判断はご自身の責任で、最新の一次情報の確認や必要に応じた専門家への相談も踏まえて行ってください。




【免責事項】
記事内のデータ・数値は2026年8月時点の情報をもとにしています。
投資に関するご注意事項 本記事に掲載している情報は、資産運用に関する一般的な情報の提供および筆者個人の見解の記録を目的としたものであり、特定の金融商品の売買、特定の投資手法、または投資成果を保証・勧誘するものではありません。
掲載情報については細心の注意を払っておりますが、その正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。また、予告なしに内容を変更・削除することがあります。
投資には価格変動リスク、信用リスクなど様々なリスクがあり、元本を割り込む可能性があります。実際の投資判断にあたっては、必ずご自身の責任と判断において行っていただきますようお願いいたします。本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、筆者は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。



コメント