米国株を始める人のための決算書入門
英語で何百ページもある資料も、見る場所さえ分かればこわくありません。日本の決算短信と比べながら、初心者でも今日から使える読み方をお伝えします。
米国株に興味はあるけれど、会社の中身をどう調べればいいのか分からない。そんな方は多いのではないでしょうか。
実は、米国の上場企業は毎年1回、「10-K(テン・ケー)」という非常にくわしい年次報告書を公開しています。ここには、売上や利益の数字だけでなく、会社が自ら「これが怖い」と認めるリスクや、経営陣が考える今後の見通しまで書かれています。
しかも、誰でも無料で読めます。プロの投資家も読んでいる一次情報に、個人投資家が直接アクセスできる。これは米国株投資の大きな魅力のひとつです。
この記事では、日本でおなじみの「決算短信」と比べながら、10-Kのどこを読めばよいのかを、できるだけやさしく解説していきます。
10-Kとは、米国の証券取引委員会(SEC:米国で株式市場のルールを決め、監視する役所)に、上場企業が毎年提出する年次報告書です。名前は、提出に使う書類の様式番号がそのまま呼び名になったものです。
10-Kの大きな特徴は、次の3つです。
- 会計監査を受けた数字が載っている(外部の監査法人がチェック済みの、信頼度の高いデータです)
- 事業内容やリスクが文章でくわしく説明されている(数字の裏にある「なぜ」が分かります)
- 書く項目の順番が法律で決まっている(どの会社でも同じ場所に同じ情報があるので、慣れると比較がとても楽になります)
提出の期限は会社の規模によって異なり、大企業では決算期末から60日以内、それより小さい会社では75日または90日以内と定められています。また、3か月ごとには「10-Q(テン・キュー)」という四半期報告書も出されます。10-Kはその年間版と考えるとイメージしやすいでしょう。
日本株を調べたことがある方なら、決算短信(けっさんたんしん)を見たことがあるかもしれません。決算短信は、東京証券取引所のルールにもとづいて、決算の結果をいち早く知らせるための速報資料です。決算期末から45日以内の開示が求められており、多くの会社は1か月ほどで発表します。
ここで大切なのは、10-Kの本当の「仲間」は決算短信ではなく、有価証券報告書(有報)だという点です。有価証券報告書は、金融商品取引法という法律にもとづいて提出する、監査済みのくわしい年次報告書です。つまり、日本では「速報の短信」と「くわしい有報」が分かれているのに対し、米国では10-Kがくわしい年次報告の役割を担っています。
では、米国に「速報」はないのかというと、そうではありません。米国企業は決算発表の日に「アーニングス・リリース(決算発表資料)」を出し、「8-K(臨時報告書)」という書類でSECにも届け出ます。日本の決算短信に近いのは、むしろこちらです。
| 比べる項目 | 米国 10-K | 日本 決算短信 | 日本 有価証券報告書 |
|---|---|---|---|
| 役割 | くわしい年次報告 | 決算の速報 | くわしい年次報告 |
| 根拠となるルール | 米国の法律(SEC) | 取引所のルール | 金融商品取引法 |
| 監査 | あり | 必須ではない | あり |
| 公表の時期 | 期末から60〜90日以内 | 期末から45日以内が目安 | 期末から3か月以内 |
| ページ数の目安 | 100ページ超も多い | 20ページ前後 | 100ページ超も多い |
| 業績予想 | 原則なし | 載せる会社が多い | なし |
| 入手先 | SECのEDGAR | TDnet・会社サイト | EDINET |
もうひとつ面白い違いが「業績予想」です。日本の決算短信には、来期の売上や利益の予想を載せる会社が多くあります。一方、米国の10-Kには通常、会社の数字としての業績予想は載っていません。米国企業が見通し(ガイダンス)を示すのは、決算発表資料や、決算説明の電話会議(カンファレンスコール)が中心です。
豆知識:日本の開示ルールも変わってきています
日本では2024年4月から、法律で義務づけられていた「四半期報告書」が廃止され、四半期の開示は決算短信に一本化されました。そのぶん決算短信の役割はさらに大きくなっています。米国の10-Qは今も続いているため、四半期の情報の出し方にも日米で違いが出てきています。
10-Kは、Item(アイテム)と呼ばれる番号つきの項目に分かれています。全部で20前後ありますが、初心者が最初に読むべきなのは次の4つだけです。全部を読もうとせず、この4か所に絞るのが挫折しないコツです。
-
1
Item 1(Business:事業の説明)
その会社が何で稼いでいるのか、主力商品、お客さん、ライバル、従業員数などが書かれています。まずは「この会社はどんな会社か」を自分の言葉で説明できるようになることが目標です。 -
2
Item 1A(Risk Factors:リスク要因)
会社自身が「こんなことが起きたら業績が悪くなるかもしれない」と認めている項目です。去年の10-Kと見比べて、新しく追加されたリスクがないかを確認すると、会社の心配ごとの変化が見えてきます。 -
3
Item 7(MD&A:経営者による分析)
MD&Aは「経営陣が自分の言葉で業績を説明する場所」です。売上が伸びた理由、利益が減った理由、お金の使い道などが書かれています。10-Kの中でいちばん読みごたえのある部分と言えます。 -
4
Item 8(Financial Statements:財務諸表)
損益計算書(1年間のもうけの成績表)、貸借対照表(会社の財産と借金の一覧表)、キャッシュフロー計算書(実際のお金の出入りの記録)が載っています。数字を確認したいときはここを見ます。
英語が不安な方も安心してください。今はブラウザの翻訳機能やAIを使えば、日本語でおおまかな内容をつかめます。ただし、数字や固有名詞は翻訳でずれることがあるので、大事なところは原文の数字を必ず確かめる習慣をつけましょう。
10-Kを読むときに初心者がつまずきやすいのが、日本と米国の表現の違いです。代表的なものを押さえておきましょう。
単位に注意
米国の決算書は「in millions(百万ドル単位)」で書かれることが多いです。表の上にある単位の注記を最初に確認しましょう。
カッコはマイナス
米国の表では、(250) のようにカッコで囲まれた数字はマイナスを意味します。日本の「△」と同じ役割です。
会計年度がバラバラ
米国企業は決算期がそろっていません。たとえばアップルは9月末ごろ、マイクロソフトは6月末が年度の区切りです。
よく出てくる英語の用語も、日本語と対応させておくと読むスピードが一気に上がります。
| 英語 | 日本語 | かみ砕くと |
|---|---|---|
| Revenue / Net sales | 売上高 | 商品やサービスが売れた金額の合計 |
| Gross margin | 売上総利益 | 売上から作るのにかかった費用を引いた、ざっくりのもうけ |
| Operating income | 営業利益 | 本業でかせいだもうけ |
| Net income | 純利益 | 税金なども全部払ったあとに残る最終的なもうけ |
| Diluted EPS | 希薄化後1株利益 | 1株あたりのもうけ。株価と比べる大事な数字 |
| Free cash flow | フリーキャッシュフロー | 会社が自由に使える手元のお金の増え方 |
なお、フリーキャッシュフローは10-Kに直接その名前で載っていないことも多く、一般には「営業活動によるキャッシュフロー」から「設備投資」を引いて自分で計算します。こうした計算ができるようになると、決算書を読む楽しさがぐっと増してきます。
ここからは、実際の手順を見ていきましょう。例として、身近なアップルの10-Kを読むケースを考えます。
-
1
SECのEDGAR(エドガー)を開く
EDGARは、米国企業の提出書類を無料で検索できるSECのデータベースです。検索窓に社名かティッカー(銘柄を表す記号。アップルならAAPL)を入力します。会社のIR(投資家向け情報)ページからも同じ資料にたどり着けます。 -
2
書類の種類を「10-K」で絞り込む
一覧にはたくさんの書類が並んでいるので、フィルターで10-Kだけを表示し、いちばん新しいものを開きます。 -
3
目次から Item 1 を読む
アップルの場合、iPhone、Mac、iPad、ウェアラブル、サービスといった事業の区分が説明されています。まずは「売上の柱は何か」をつかみます。 -
4
Item 7 で「伸びている事業」を確認する
製品ごと、地域ごとの売上の変化が表で示されています。どの事業が伸び、どこが伸び悩んでいるのかをメモしましょう。近年のアップルでは、アプリストアやサブスクリプションなどのサービス事業の存在感が高まっていることがよく話題になります。 -
5
Item 1A で「会社の心配ごと」を読む
海外の生産拠点への依存、各国の規制、為替の動きなど、会社自身が挙げるリスクを確認します。ニュースで見聞きする話題が、会社の公式な言葉でどう書かれているかを見るのは、とても勉強になります。
ここで、ぜひ試してほしい読み方があります。それは「日本の同業他社の決算短信や有価証券報告書と並べて読む」ことです。たとえば、米国のハイテク企業と日本の電機メーカーを比べると、もうけの大きさ、研究開発にかけるお金、株主への還元の仕方などの違いがはっきり見えてきます。数字の背景にある経営の考え方の違いが分かると、投資先を選ぶ目が一段と鍛えられます。
初心者向けの読み進め方
- 最初は自分が知っている会社、使っている商品の会社から始める
- 1回で全部分かろうとせず、4つの Item を1日1つずつ読む
- 去年の10-Kと見比べ、増えた言葉や消えた言葉に注目する
10-Kはとても頼りになる資料ですが、いくつか気をつけたい点もあります。
まず、10-Kは期末から少し時間がたってから公開されるため、株価はすでに決算発表の時点で反応していることが多いです。10-Kは「短期で売買するための速報」ではなく、「会社を深く理解するための資料」として使うのがおすすめです。
次に、リスク要因の項目には、起きる可能性が低いことも含めて幅広く書かれています。これは、あとで投資家から「知らされていなかった」と言われないように、会社が慎重に書いているためです。リスクの数が多いからといって、すぐに危ない会社だと判断する必要はありません。
最後に、米国企業の多くは、会計ルールにもとづく数字とは別に、会社独自に調整した利益(Non-GAAP:一時的な費用などを除いて会社が計算した利益)を決算発表で強調することがあります。10-Kに載っている監査済みの数字と、決算発表で目立たせている数字の違いを意識すると、より冷静に業績を見られます。
- 10-Kは米国企業が毎年SECに提出する、監査済みのくわしい年次報告書です
- 日本の決算短信は「速報」、10-Kに近いのは有価証券報告書です
- 読むのは Item 1、1A、7、8 の4か所からで十分です
- 単位、カッコのマイナス表記、会計年度の違いに注意しましょう
- EDGARを使えば、誰でも無料でプロと同じ一次情報を読めます
最初の1冊は時間がかかるかもしれません。でも、2社目、3社目と読むうちに、どこに何が書いてあるかが自然と分かるようになります。気になる会社の10-Kを1つ開いて、Item 1 の最初のページを読むところから始めてみてください。そこには、ニュースだけでは見えない会社の素顔が待っています。
本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買をすすめるものではありません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。記載の制度は執筆時点の内容であり、最新の情報はSEC、金融庁、東京証券取引所などの公式サイトでご確認ください。

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記事内のデータ・数値は2026年9月時点の情報をもとにしています。
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